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PROLOGUE ― Escape from the Grand Maze

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この記事の所要時間: 330

これは「Escape from the Grand Maze – 巨大迷路からの脱出」のコンテンツ(小説)です。

Escape from the Grand Maze - 巨大迷路からの脱出
更新履歴 2017/04/19 START編公開。 2017/03/18 PROLOGUEの漫画版公開 2017/03/14 公開開始。PROLOGUE公開。 これは当サイトの管理者である「ガノー」が書いている、 オリジナルのウェブ小説(/漫画)です。ジャンルは異世界転送系の、ローファンタジーです。実験的に、ライトノベルを、「ウェブのリッチな表現を用いて書き、それを公開するものです。また随時、漫画画像(ネームレベル≒棒人間レベル)を作成し掲載してい...

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幼い頃の思い出

教室のイスに座り、もくもくと机上に広げたノートへ、何かを書き込んでいる少年がいる。それを見つけて、背の高い少年が話しかけた。

「おい田中。なにやってんだ?」
「げっ、山下君・・・・」
「げってなんだ、怪しいな。ちょっと貸せ」

そう言うと山下は、机上のノートを取り上げる。

「・・・・なんだこれ?」

ノートには何か英語らしい、アルファベットや数字、記号の羅列が書き込まれていた。

「プログラムだよ・・・・」

と、田中は顔を机の隅に移して答えた。

「これがプログラム?」

そういうと山下は顔をノートから外し、笑い声を吹き出しながら続けた。

「あははは。おいおい、バナカ・・・。プログラムってのはパソコンでやるんだよ」

バナカ。これは山下が使う、田中を呼称する一つの表現だ。昨今の教育委員会などでは、親しみを込めた愛称とでも表現するかもしれない。されど、田中はこの呼ばれ方が嫌いだった。それでも、彼は顔をうつむけることしかできない。

田中が徐々に、悔しさの方が勝ろうとしていたところ、不意に山下が悲鳴をあげた。

「あいてっ!」

田中はその声に驚いて顔を上げ、山下と、その奥の姿を確認した。

教室の黒板そばに、投球フォーム終えた女の子が見える。

「痛えよ、瑠菜るな!」

山下は右手にノートを持ち替えて、自分に当たったゾウキンを左手でつかみ、前に突き出した。

瑠菜と呼ばれた女の子は、ケラケラと笑いながら二人のそばまで近づき、言葉を続けた。

「もう、小学6年生にもなって、イジメみたいなこと止しなさいよ」
「誰もイジメてなんかねえよ」
「じゃあ、なにしてたのよ。それ? 見てもいい?」

そう言うと瑠菜は、二人が答えるよりも速く、山下が持っていたノートを取り上げた。

「これ何?」
「プログラムだってよ」

瑠菜の問いに、山下が嘲笑めかして答える。

田中はついつい目線を右下へ外した。それは、田中は瑠菜へ好意を寄せていたからだ。彼女が、彼と同じような反応をするのではないかと思うと、視線を保つことが出来なかったのだ。

「へえ、凄いじゃない」

瑠菜の賞賛の声に、田中は驚いて顔を上げた。山下はそのことが気にくわなかったようだが、顔に出した程度にとどめた。

そしてしばらくノートを見ていた瑠菜は、思い出したように続けた。

「ほら、二人とも。もう休み時間は終わりだよ。掃除、掃除!」

高校2年生の教室

教室

ここは教室、数学の授業中。学生たちは自身の顔を、正面で教べんをとる中肉中背の教師へ、一応・・向けている。眠気眼ねむけまなこの者もいれば、既に異世界へ旅だってしまっている者もいるし、ちゃんとノートをとっている者もいる。

その中でも、とくにノートを立てて、その後ろに隠れて何かにいそしんでいる者がいた。

ある一定の年齢の人は、「ノートを立てて、その後ろに隠れて行うことは何か」と聞かれると、「早弁はやべん」と答えるかもしれない。もちろん、(良いか悪いかは別で)今の世代ではそんなことはない。

むしろその場合、大抵が「スマートフォンをいじっている」のだ。

スマートフォンでゲーム中。

――――

よし、間に合った。無料ガチャ券付き限定コラボ。

無課金の僕には外せないイベント。しかもイベント開始の先着1,000名には、もれなくガチャ券が、さらに1枚増量されるおまけ付き。

今のソシャゲについて端的に表現するなら、それは「時間割制」。

ゲーム会社は、もちろんお金を儲けるためにソシャゲを運営している。だからこそ、ゲームに時間を合わせられない忙しい大人をターゲットにしている。ゲームに時間を合わせられないという、いわゆるハンディキャップを無くすために、課金を促すってわけ。

もちろん、それは一つの方針でしかないけど、無課金で強くなるためには、意識しておいた方がよいポイント。

それに、今回の限定キャラは特殊能力が‥‥

いてっ!

――――

本を立てていた学生が突如、大声をあげた。

彼の額に当たったと思われる、白くて軽い短棒が、スマートフォンの上に落ちる。短棒はその衝撃で普段以上に粉吹いて、ガラス面に飛散する。それらの反動で、教科書も倒れた。

「痛いですよ! 大山先生!」
「田中・・・・、授業中は携帯、使用禁止だって何回言わせるんだよ」
「だからって、チョークなんか投げないでくださいよ!」

スマートフォンをいじっていたのは、あの田中だった。今の田中は、授業中だということよりも、痛さへの抗議の方が勝っていた。

それを見ていた別の学生が、勢いよく立ち上がる。

「なんだ、山下」
「先生! 田中とのコント、もう見飽きたんですけど」

その発言に、学生たちは笑い声を上げた。田中が授業中にたしなめられるのを、同郷小出身の山下が茶化す。これは日常茶飯事だった。

「‥‥まあいい」

大山と呼ばれた教師は、そう言うと教壇から歩きだし、立てられた教科書のそばで止まった。

「田中。今回は校則違反で没収だからな。ほら」
「きょ、今日は大切な用事・・があるから‥‥」
「おまえ、毎回同じこと言ってるぞ。いいから渡せ。放課後には返してやるから、職員室へ来いよ」
「そ‥‥そんな、殺生なっ‥‥」

放課後

夕暮れの雲

下校時刻を告げる金属音の旋律。

校舎の中に人の気配はなく、校舎前の校庭でさえ、1年生らしい体格の野球部員が数名グラウンド整備をしているだけだった。

人が少ないというだけで、旋律は反響し、そして歪む。不気味さをまとったその残響音は、春先の茜空へと吸い込まれた。

その光景を尻目に、校門前で腕を組んでいる男子学生が独りごちる。

「遅い! 約束の時間、もう30分も超えてるじゃん。本当なら今頃、魔力全快しているのに‥‥」

その男子学生の正体は、田中だった。田中は左腕につけた、時計の針を見ながらため息をついている。

「おーい」

田中を呼ぶ声が聞こえた。

「遅いですよ、大山先‥‥」

田中はそう言いながら振り返ったが、怒りの表情を落胆の表情へ変えた。

「なんだ山下じゃん‥‥」
「なんだってなんだよ。で、どうしたんだ。誰かと待ち合わせか?」
「まあね。昼にスマホ没収されたじゃん」
「ああ、数学の。あの光景は笑えたな」
「‥‥。で、なんか用なの?」
「ああそうそう、これ。兄貴がお前にって。興味あるだろうからってさ」
「これ何?」

そう言って山下が田中へ渡したのは、どこかの大学の、学園祭の案内用紙だった。

「ほらこの部分。オリジナルゲームの発表会だってよ」
「へえ。確かにおもしろそう」
「だろ?」

二人が話していると、その後ろから男性が声をかけた。

「田中、お待たせ」
「先生、遅いですよ!」
「わるいわるい、ちょっと手間取ってしまって」

大山はそれ以上追求させないために、隣にいた山下へ話を替えた。

「山下も今帰りか」
「はい」

田中はまだ文句を言っているが、大山はかまわず話を続けた。

「二人は仲いいよな。同じ小学校出身だったか?」
「いや、仲よくなんか無いですよ」
「うわひっでぇ言いよう。同じマドンナを巡って争った仲なのに」
「ちょっ、変なこと言わないでよ!」

大山は、この光景を意外だと感じながら見ていた。なぜなら田中に対し、黙々とスマートフォンをいじっている印象を抱いていたからだ。

田中と山下は小学生時代とは違い、いじめっ子といじめられっ子のような、一方的な関係では無くなっていた。

「じゃあ、田中。そろそろ行くか。山下も気をつけて帰れよ」

その言葉を機に、田中と大山、そして山下はそれぞれの帰路へ就いた。

帰路

夜道

大山と田中は、同じ目的地へ向かって歩いている。

当初は放課後、すぐに田中のスマートフォンを、大山は返す予定でいた。しかし田中が他の科目の授業中にも、同様にスマートフォンをいじっていることを、大山は耳にしてしまったのである。

そこで正義感の強い大山は、臨時の家庭訪問を行うことを決めたという訳だ。

「先生、僕のスマホ。もう返してくれませんか?」
「いやいや、家庭訪問の中で返すからな」
「先生‥‥」
「なんだ」
「僕のスマホ‥‥」
「そのためにも早く向かおうな」
「‥‥」

二人は何度も同じやりとりを行いながら、既に日の落ちた家路を急いで歩いた。

急転

そして場面は急転する。

暗かった辺りは明るく変わり、起きて歩いていた二人は気絶している。舗装道も土に変わり、広々とした街の空間も、辺りを巨大な壁に変えていた。

その中で、先に大山が目を覚ました。

始めは理解できない様子を見せていたが、田中が気を失っていることに気づき、我を取り戻した。

「おい田中、しっかりしろ」

大山は、隣にいた田中の頬を手で軽く揺らしながら、声をかけた。何度か声をかけたところ、田中も目を開いた。

――なんだこれは――

二人が居たのは、辺り一面が高さ10メートルはあろうかという、巨大な壁に囲まれた空間だった。

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